先日入手したのは、明治3年銘の「旭日竜20銭銀貨」です。
PCGS鑑定済み(MS62)で、スラブのラベルには魅力的な『Deep Scales(深鱗)』の表記が踊る、非常に力強い個体です。
■ 旭日竜の「手変わり」とは?
具体的な個体の紹介に入る前に、この時代の銀貨収集の醍醐味である「手変わり」について少し触れておきます。
明治初期の銀貨は、表面(菊紋側)と裏面(竜図側)の刻印を組み合わせて製造されていました。
刻印は消耗品のため摩耗すると取り替えられますが、その際「古い表面」と「新しい裏面」が混ざるなど、時期によって様々な組み合わせが生まれました。
「日本の近代銀貨研究会」では、この微細な違いを以下の2つの視点で体系化しています。
🔶表面(菊紋側):A~Eの5タイプ
(葉脈の太さや彫りの深さなど)
🔷裏面(竜図側):a~dの4タイプ
(竜の鱗の形や鮮明さなど)
この「5×4」の組み合わせをパズルのように解き明かしていくのが、旭日竜研究の非常に奥深い楽しみです。
■ 旭日竜20銭・手変わり分類の全体像
「日本の近代銀貨研究会」の分類は、刻印が摩耗し、新しいものへ作り替えられていく過程で生じた「デザインの微細な変化」を捉えたものです。
1. 表面(菊紋側):葉脈と彫りの変遷
【A~E型】
表面の判定基準は、主に「菊の葉脈(はみゃく)」の彫り方にあります。
🔶A~B型(初期:直粗・曲粗)
葉脈が太くて粗く、本数も少ないのが特徴です。明治3年のごく初期に見られます。
🔶C型(中期:4葉広脈)
「右枝の下から4番目の葉」の脈だけが極端に幅広くなっており、鑑定の決定的な決め手となります。
🔶D~E型(後期:整密・離密)
技術が安定し、葉脈が細かく密(みつ)に刻まれるようになります。
D型とE型の違いは、左側の葉の先端にある細い枝脈が、主脈とくっついているか(一致)、離れているか(不一致)という、非常にミクロな視点で区別されます。
2. 裏面(竜図側):鱗(ウロコ)の進化
【a~d型】
裏面の主役である「竜」の鱗は、製造時期が進むにつれて驚くほど精密になっていきます。
🔷a型:不明瞭鱗
明治3年の標準的な姿です。
鱗の境界がぼんやりしており、全体的に滑らかな印象を受けます。
🔷b型:明瞭横小鱗(切りウロコ)
鱗一つひとつが「ノミで刻んだ」ようにはっきりと独立しています。
明治3年の終わり頃に登場する、非常に人気の高いタイプです。
🔷c型:明瞭横大鱗(重ね薄ウロコ)
明治4年の主流です。鱗が少し大きくなり、魚の鱗のように重なり合って見えます。
🔷d型:明瞭縦小鱗(重ね深ウロコ)
明治4年の完成形です。鱗が縦長になり、さらに立体感が増します。
3. 「5×4」が織りなす15の物語
理論上の組み合わせは20通りありますが、実際に確認されているのはそのうちの15種類です。
これは「表面Aの刻印が壊れたとき、裏面はまだaを使っていた」「表面をCに変えたタイミングで、裏面もbに変わった」といった、当時の造幣局内のリアルな刻印の寿命と交換の歴史を反映しています。
この「15種のどれに当てはまるか」を特定することは、単なる分類作業ではなく、「このコインが明治3年(または4年)の、どの時期に誕生したのか」というタイムトラベルのような推察なのです。
■ 今回の個体の詳細検証
それでは、入手したコインを資料と照らし合わせて詳しく見ていきましょう。

【裏面(竜図):b型(明瞭横小鱗)】
PCGSが『Deep Scales』と評価した通り、竜の鱗(ウロコ)一粒一粒が非常に深く、独立して刻まれています。

これは研究会分類の「b型」に該当する、通称「切りウロコ」と呼ばれる特徴です。
【表面(菊紋):C型(直粗・4葉広脈)】
菊の右側の枝、下から4番目の葉に注目してください。

ここの脈が他の葉に比べて明らかに幅広く、深く彫り込まれています(広脈)。
全体的に直線的な葉脈(直粗)であることからも、資料の「C型」と判定できます。
■ 存在率11%の価値
この「C型」と「b型」が組み合わさったものは、研究会の統計データによると以下の評価となります。
- 分類番号:(7) 明治3年 後期II [C・b]
- 資料上の存在率:11%
- 評価:少(いわゆる「M3明瞭鱗」)
明治3年銘で最も一般的な組み合わせ(存在率48%)と比較すると、約4分の1以下しか存在しない計算になります。
希少であることはもちろん、竜の生命力が際立つこの組み合わせは、収集家として非常に所有満足度の高い一枚です。
■ おわりに
単に状態の良さを楽しむだけでなく、このように先人たちが積み上げてきた緻密なデータを参照することで、一枚のコインが持つ製造の歴史がより鮮明に浮かび上がってきます。
具体的な数字(11%)を知ることで、この銀貨への愛着もより一層深いものになりました。
これからも、こうした「手変わりの奥深さ」を楽しみながら、収集を続けていきたいと思います。
【出典・参考文献】
本記事における手変わりの分類名称、存在率、および判定基準は、「日本の近代銀貨研究会」発行の資料より引用・参照させていただきました。
近代銀貨の微細な差異を科学的に体系化された先駆者の方々の多大なる研究成果に、深く敬意と感謝を捧げます。

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