【リセッション】景気後退を予測する『サーム・ルール』とは?

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サーム・ルールで景気後退を予測する方法:分かりやすい解説

はじめに

景気後退という言葉を耳にすると、経済全体が悪化し、失業率が上昇するなどのイメージが浮かぶかもしれません。景気後退は、多くの人々にとって生活の質に大きな影響を与えるため、政府や中央銀行、企業、そして個人がその兆候を予測することは非常に重要です。

この記事では、最近注目されている「サーム・ルール」(Sahm Rule)という手法について詳しく説明します。このルールは、アメリカのエコノミストであるクラウディア・サーム(Claudia Sahm)によって開発され、失業率のデータを基に景気後退を予測するシンプルかつ有効な方法です。

サーム・ルールとは?

サーム・ルールは、主にアメリカの景気後退を予測するために使われる指標です。このルールは、特定の失業率の変動に基づいて、景気後退が始まる可能性が高い時期を特定します。具体的には、直近3か月の平均失業率が、過去12か月間の最低失業率よりも0.5ポイント以上上昇した場合、その時点で景気後退が始まったと判断されます。

この手法の優れた点は、シンプルでありながら、過去のデータを基にして高い正確性を持つ点です。従来の経済指標を使った景気後退予測にはタイムラグが生じることが多く、実際に景気後退が始まった後にしか予測できないこともあります。しかし、サーム・ルールは失業率の動向をリアルタイムで捉え、迅速に景気後退の兆候を示すことが可能です。

サーム・ルールの仕組み

サーム・ルールの基本的な仕組みは次の通りです:

  1. 12か月間の最低失業率を特定する
    サーム・ルールを適用するための最初のステップは、過去12か月間の中で最も低い失業率を見つけることです。この最低失業率は、過去の経済状況のピークを示します。
  2. 直近3か月の平均失業率を計算する
    次に、現在の景気状況を評価するため、直近3か月の平均失業率を計算します。この3か月の平均は、短期的な労働市場の動向を示す重要な指標です。
  3. 比較と判断
    直近3か月の平均失業率が、過去12か月間の最低失業率よりも0.5ポイント以上上昇している場合、景気後退が始まった可能性が高いとみなされます。

例えば、過去12か月間の最低失業率が3.5%だったとしましょう。その後、直近3か月の平均失業率が4.0%に上昇した場合、失業率は0.5ポイント増加しているため、サーム・ルールに従えば、景気後退のサインとなります。

サーム・ルールの利点

サーム・ルールにはいくつかの明確な利点があります:

  1. シンプルで分かりやすい
    経済指標の中には複雑な計算や多くの要因を考慮するものもありますが、サーム・ルールは失業率という単一のデータを使用するため、非常にシンプルです。誰でも比較的簡単に計算し、景気後退のリスクを把握することができます。
  2. 過去のデータに基づいた高い信頼性
    クラウディア・サームがこのルールを開発する際、過去の経済データを詳細に分析しました。その結果、サーム・ルールはアメリカの過去の景気後退を的確に予測してきました。これは、信頼性のある手法として広く認識されています。
  3. リアルタイムの予測が可能
    他の経済指標と異なり、サーム・ルールはリアルタイムでの景気後退予測が可能です。これは政策決定者や企業が迅速に対応するための重要なツールとなります。例えば、政府が景気後退の兆候を早期に察知すれば、景気刺激策を速やかに打ち出すことができます。

サーム・ルールの限界

もちろん、サーム・ルールにも限界はあります。以下の点に注意が必要です。

  1. アメリカ以外での適用に課題
    サーム・ルールは、主にアメリカの労働市場を前提に作られたものであり、他の国々でそのまま適用できるかどうかは不明です。各国の労働市場の構造や政策の違いにより、同じ指標が必ずしも有効とは限りません。
  2. 失業率以外の要因を考慮しない
    サーム・ルールは失業率に基づく単純な指標であるため、他の経済的要因(例えば、GDP成長率、インフレ率、消費者信頼感など)を考慮しません。これにより、失業率が増加していても、景気後退の他の兆候が現れていない場合、誤った予測をしてしまう可能性があります。
  3. 政策や外的要因の影響
    サーム・ルールは過去のデータに基づいて作られているため、政府の政策変更や国際的な経済情勢の急激な変化に対応するのが難しい場合があります。特にパンデミックのような予測不可能な外的要因が発生した際には、失業率の変動が経済全体の状態を正確に反映しないことがあります。

日本におけるサーム・ルールの活用可能性

サーム・ルールはアメリカを対象に開発されたものですが、日本でも失業率に注目した景気後退予測の一環として参考になる可能性があります。日本の失業率は他国と比較して相対的に低い傾向があり、その変動も小さいですが、もし日本でも失業率が急上昇した場合、サーム・ルールに基づく景気後退の兆候を検討する価値があります。

ただし、日本の労働市場は、雇用の安定性や雇用慣行(終身雇用や年功序列)といった独自の特徴があるため、単純にサーム・ルールを適用するだけではなく、他の要因と組み合わせた分析が重要です。

まとめ

サーム・ルールは、失業率の変動を基にして景気後退を予測するシンプルかつ効果的な手法です。そのシンプルさゆえに多くの経済専門家や政策決定者から注目されていますが、他の経済指標や外的要因も併せて考慮する必要があります。日本においても、失業率の変動に注目することで、景気後退のリスクを早期に察知し、適切な対策を講じることができるかもしれません。サーム・ルールを活用した経済予測は、今後も重要なツールの一つとして位置付けられていくことでしょう。

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