​【有事の資産防衛】債券と貴金属に「互換性」はあるのか?地政学的リスクから資産を守る新常識

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​近年、世界情勢はかつてないほど不透明さを増しています。

中東情勢の緊迫化、ウクライナ情勢の長期化、そして米中対立。

こうした地政学的リスクがニュースを賑わすたび、マーケットでは投資家たちがこぞって安全資産へと資金を避難させます。

​その代表格が、債券と、金をはじめとする貴金属です。

​しかし、ここで一つの疑問が浮かびます。

債券と貴金属は、地政学的リスクに対して同じように機能するのでしょうか。

つまり、投資戦略において両者は「互換性(入れ替え可能)」があるものなのでしょうか。

​結論から言えば、この両者は短期的には似た動きを見せる局面が多いものの、長期的・構造的なリスクに対しては全くの別物です。

今回は、この両者の決定的な違いと、歴史的なセオリー、そして現代特有の挙動を整理しながら、賢い使い分けについて徹底的に解説します。

​1. なぜ有事に債券と金が買われるのか?(共通点と相関性)

​まず、なぜ地政学的リスクが高まるとこの2つが注目されるのか、そのメカニズムを整理しましょう。

投資の世界には「質への逃避(Flight to Quality)」という言葉があります。

​心理的な安全の拠り所

​戦争やテロ、大規模な経済制裁などが起きると、将来の経済成長や企業の収益予測が困難になります。

すると投資家は、価格変動の激しい株式などのリスク資産を売り、より確実性の高い資産にお金を移そうとします。

​ここで選ばれるのが主に以下の2つです。

​一つは債券、特に米国債などの先進国国債です。これは、世界最強の経済国である米国政府が潰れるはずがないという、国家の信用に基づいた避難先です。定期的な利息が約束されており、パニック時には買いが集中して価格が上昇(利回りは低下)する傾向があります。

​もう一つは貴金属、代表的なものは金です。これは国すら信じられない事態になっても、金そのものに価値があるという実物資産への避難先です。金はそれ自体が数千年にわたり価値を認められてきた歴史があり、いかなる国家の破綻もその価値をゼロにすることはありません。

​このように、突発的なパニック局面では、株が売られ、債券と金が同時に買われる現象が起きやすくなります。

この時点では、両者は安全資産という括りで強い正の相関(連動性)を見せるため、一時的な避難先としてはある程度の互換性があるように見えます。

​2. 決定的な違い:インフレと金利という天敵

​どちらも安全なら、どちらを持っていても同じではないかと思うかもしれません。

しかし、地政学的リスクの性質によっては、両者の命運は真っ二つに分かれます。

ここで重要になるのが、インフレ(物価上昇)と金利の関係です。

​債券の弱点:インフレに勝てない固定の約束

​債券とは、平たく言えば国や企業へのお金の貸付証明書です。

例えば、100万円貸してくれたら毎年1%の利息を払い、10年後には100万円返します、という固定の約束です。

​もし地政学的リスクによって原油価格が高騰し、猛烈なインフレが起きたらどうなるでしょうか。

物価が2倍になれば、10年後に返ってくる100万円で買えるものは、今の50万円分にまで目減りしてしまいます。

また、インフレを抑えるために中央銀行が政策金利を上げると、利回りの低い古い債券は売られ、価格が下落します。

​つまり、債券は通貨の価値に依存しているため、インフレを伴う有事には本質的に弱いという側面があります。

​貴金属の強み:価値が目減りしない無国籍通貨

​一方で、金や銀などの貴金属はモノそのものです。

インフレで通貨の価値が下がれば、相対的にモノである金の価格は上昇します。

また、金はどこの国の政府も発行していないため、特定の国の経済破綻や信用失墜の影響を直接受けません。

​投資理論では、金価格は実質金利(名目金利から期待インフレ率を引いたもの)と逆の動きをすることが知られています。

インフレが加速して実質金利が低下する局面では、金は最強のパフォーマンスを発揮します。

​3. 地政学的リスクを3つのシナリオで分析する

​地政学的リスクと一口に言っても、その中身によって債券と貴金属の互換性は変化します。

​シナリオA:純粋な軍事的・政治的ショック

​突発的なテロや、供給網への影響が少ない小規模な紛争など、市場が一時的に驚くだけのケースです。

この場合、市場心理の冷え込みから債券価格も金価格も上昇し、両者の互換性は高まります。

​シナリオB:資源・物流が止まる有事

​現在私たちが直面している、エネルギー価格の急騰を伴うケースです。

この場合、インフレへの懸念が強まるため、債券は売られやすく、金はインフレヘッジとして買われます。

ここでは両者に互換性はなく、むしろ逆の動きをすることさえあります。

​シナリオC:国家の信用失墜・通貨危機

​特定の国が国際決済網から排除されたり、デフォルト(債務不履行)の懸念が出たりするケースです。

該当国の債券は紙切れ同然のリスクを抱えて暴落しますが、金は逃避先として急騰します。

この局面では互換性は完全に失われます。

​4. 近年の市場に見られる構造的変化

​ここで一つ、最新の知見として補足しておかなければならない点があります。

それは、金と実質金利の関係が近年やや崩れつつあるという事実です。

​かつては、金利が上がれば利息を生まない金の魅力は下がるというのが定説でした。

しかし、2020年代に入ってからは、米国の金利が高い水準にあるにもかかわらず、金価格が最高値を更新し続けるという現象が見られています。

​この背景には、中国やインドなどの中央銀行による巨額の金買い増しや、ドル依存からの脱却(脱ドル化)を目指す国々の動きがあります。

地政学的リスクが慢性化し、国家間の対立が構造的なものになった結果、金は単なる一時的な避難先ではなく、国家の備蓄資産としての重要性を高めているのです。

この変化は、債券と金の互換性がさらに低まり、それぞれが独自の役割を強めていることを示唆しています。

​5. 日本の投資家が意識すべき「為替」と「種類」

​日本の投資家にとって、資産防衛を考える際にもう一つ無視できないのが為替の影響です。

​円建て価格の視点

​私たちが購入する債券や金がドル建て資産である場合、地政学的リスクによって円安が進めば、資産価値は円ベースで二重に上昇します。

逆に、円高局面では価格上昇分が相殺されてしまうこともあります。

​有事の際には、有事の円買いが起きることもあれば、最近のように日本と他国の金利差から円安が続くこともあります。

債券と金の互換性を考える際、それらがどの通貨建てで運用されているかを把握することは、資産を守る上で不可欠な視点です。

​債券の選択肢を広げる

​また、債券=インフレに弱い、と一概に決めつけるのも早計です。

債券の中には、物価の上昇に合わせて元本や利息が調整される物価連動国債というものも存在します。

こうした特殊な債券を活用することで、債券ポートフォリオの中でもインフレ耐性を高めることが可能です。

​6. 投資戦略:ポートフォリオにおける最強の布陣

​ここまでの分析を踏まえると、債券と貴金属をどちらか一方でいいと考えるのは危険であることがわかります。

両者は互換性があるのではなく、互いの弱点を補い合う補完関係にあると捉えるべきです。

​理想的なバランスの考え方

​債券は、デフレ局面や緩やかな景気後退期に、確実な利息(インカムゲイン)を得ながら資産を守る守備の柱です。

一方、貴金属は、ハイパーインフレや通貨危機、債券が機能しないほどの極端な有事に備える、最後の保険となります。

​一般的に、多くの運用論ではポートフォリオの5%から10%程度を金などの貴金属に割り当てることが、リスク分散の一つの目安とされています。

もちろん、これは投資家の年齢やリスク許容度、現在の資産構成によって調整が必要ですが、全く持っていない状態に比べて、有事の際の精神的な安定感は大きく異なります。

​7. まとめ:あなたはどちらを選ぶべきか?

​債券と貴金属に互換性はあるか、という問いに対する答えをまとめます。

​まず、パニック時の一時的な避難先としては、両者に一定の互換性があります。

しかし、インフレや国家信用、中央銀行の動向といった経済的・構造的背景まで考慮すると、両者は全く異なる性質を持つ資産です。

​もしあなたが、単なる市場の短期的な動揺に備え、安定的な利息収入を確保したいのであれば、債券の比重を高めるのが効率的でしょう。

しかし、今の不安定な世界情勢を鑑み、貨幣制度そのものへの不安や、長期的なインフレによる購買力の低下を真剣に懸念しているのであれば、貴金属をポートフォリオに組み入れることは必須と言えます。

​次のステップ:具体的なアクション

​この記事を読んで、自分の資産をどう守るべきか考え始めた方は、まず以下のステップから検討してみてください。

​第一に、現在の自分のポートフォリオを棚卸しすることです。株式などのリスク資産に偏りすぎていないか、また、安全資産が円預金だけになっていないかを確認してください。

​第二に、自分なりの比率を決めることです。先述した5%から10%という数字を参考に、まずは少額から金を組み入れてみるのも一つの手です。

​第三に、保有形態を考えることです。利便性を重視するなら、証券口座で買える金ETFや投資信託が適しています。

一方で、究極の有事、つまりネット証券が機能しなくなったり、電力や通信が不安定になったりする事態まで想定するならば、現物の地金やコインを一定量手元に置くという選択肢も浮上します。

ただし、現物には保管コストや盗難リスク、売買手数料(スプレッド)といった特有の課題があることも忘れてはなりません。

​地政学的リスクは、いつ、どこで爆発するか予測不可能です。

雨が降ってから傘を買うのではなく、晴れているうちに債券と貴金属という性質の異なる2つの盾を用意しておくこと。

それが、不透明な時代を生き抜く投資家の真の姿と言えるでしょう。

​さらに詳しく、各資産の具体的な銘柄や、現在の為替水準における買い時などについて知りたい場合は、ぜひ詳細を調べてみてください。

知識を深めることこそが、最大の資産防衛になります。

以上、参考になりましたら幸いです!

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