色々とご縁があって この銀貨を入手しました。

1891年に発行されたイギリス ヴィクトリア女王のジュビリーヘッド クラウン銀貨です。
この銀貨は、1887年にヴィクトリア女王即位50周年を記念して導入された「ジュビリー硬貨」シリーズの一部です。
このシリーズでは、女王の新しい肖像が採用されました。
この肖像は、現実的な成熟した女王を描写し、小さな冠をかぶった姿が特徴です。

裏面の「聖ジョージとドラゴン」のデザインは、ベネデット・ピストルッチによるもので、イギリス硬貨の伝統的な象徴となっています。
この図案は、悪を象徴するドラゴンを退治する聖ジョージを描き、正義や勝利を表しています。
銀貨のスペックです。
- 年号: 1891年
- 品位: 925銀(Sterling silver)
- 直径: 約38.6mm
- 重量: 約28.28g
- 発行枚数: 約566,000枚

重量は問題無いですね。
ヴィクトリア朝後期のイギリス
1891年当時、イギリスは産業革命後の繁栄期にあり、「大英帝国」として世界的な影響力を持っていました。
ヴィクトリア朝後期には、植民地拡大や貿易の発展が進み、経済的にも文化的にも重要な時代でした。
このような背景の中で、この銀貨はイギリス帝国の威信を象徴するものとして位置づけられていました。
クラウン銀貨の女王の肖像
ヴィクトリア女王時代(1837年~1901年)のイギリスのクラウン銀貨には、女王の肖像が異なる4つの主要なデザインが存在します。
これらは「ヤング・ヘッド」「ゴシック・ヘッド」「ジュビリー・ヘッド」「オールド・ヘッド」と呼ばれ、それぞれのデザインは当時の時代背景や文化、技術の進歩を反映しています。
以下に、それぞれの肖像について詳しく説明します。
1. ヤング・ヘッド(Young Head)肖像(1839年~1860年代)

- 特徴: ヴィクトリア女王が即位した若き時代の姿を描いた肖像で、ウィリアム・ワイオン(William Wyon)によってデザインされました。女王は左を向き、髪をシンプルなシニョン(お団子)にまとめ、リボンで飾られています。このデザインは若々しく優雅な印象を与えます。クラウン銀貨では1839年に初めて導入され、「ゴッドレス・フローリン」騒動(神を認めないデザインと批判された出来事)の後に発行された一部の貨幣にも採用されました。
- 時代背景: ヴィクトリア女王は1837年に18歳で即位し、この時期はイギリスが産業革命の真っ只中にあった時代です。経済が急成長し、帝国主義が拡大する中で、若き女王の肖像は新たな時代の象徴として国民に受け入れられました。クラウン銀貨自体は特別な機会(即位記念など)に発行されることが多く、日常的な流通よりも収集目的が強かったです。
- 技術的側面: この時期の銀貨は925スターリングシルバー(純度92.5%)で作られ、手作業による彫刻技術が反映されています。
2. ゴシック・ヘッド(Gothic Head)肖像(1847年)

- 特徴: ウィリアム・ワイオンが再びデザインを手がけたこの肖像は、中世ゴシック様式を意識した芸術的な特徴を持ちます。女王は冠を被り、髪は複雑に編み込まれ、荘厳で威厳ある姿が強調されています。特に1847年に発行されたクラウン銀貨(通称「ゴシック・クラウン」)は、その美しさから収集家に高く評価されています。縁に刻まれたゴシック体の銘文も特徴的です。
- 時代背景: 1840年代はイギリスでゴシック・リヴァイヴァル運動が盛んでした。建築や芸術において中世への憧れが広がり、オーガスタス・ピュージンなどの影響が見られます。この肖像は、当時の文化的な潮流を反映したものであり、女王を歴史的・宗教的な権威の象徴として描いています。しかし、このデザインのクラウン銀貨は試作用として少数しか発行されず、広く流通することはありませんでした。
- 技術的側面: 非常に精緻な彫刻が施されており、当時の造幣技術の頂点を表しています。
3. ジュビリー・ヘッド(Jubilee Head)肖像(1887年~1893年)

- 特徴: 1887年の在位50周年(ゴールデン・ジュビリー)を記念して導入されたデザインで、ジョセフ・エドガー・ベーム(Joseph Edgar Boehm)が制作しました。女王は小さなダイアモンドの冠を被り、ヴェールをまとった姿で描かれています。この肖像はより現実的で、ヴィクトリアの年齢を感じさせるものでした。しかし、デザインの細部が摩耗しやすく、批判も受けました。
- 時代背景: 19世紀後半、イギリス帝国は最盛期を迎え、アフリカやアジアでの植民地拡大が進んでいました。在位50周年は国民的祝賀行事となり、女王の肖像が更新されたのはこの偉業を記念するためです。同時に、産業革命の成果としての機械化が進み、貨幣製造も効率化されていました。ジュビリー・ヘッドは大量生産され、流通貨幣としての役割を強めました。
- 技術的側面: この時期のクラウン銀貨もスターリングシルバー製ですが、デザインの耐久性に課題があり、数年で次の肖像に移行しました。
4. オールド・ヘッド(Old Head)または「ヴェールド・ヘッド(Veiled Head)」肖像(1893年~1901年)

- 特徴: トマス・ブロック(Thomas Brock)によるデザインで、ヴィクトリア女王の晩年の姿を描いています。女王は未亡人としての黒いヴェールをかぶり、小さな冠を着用した威厳ある姿です。この肖像は、夫アルバート公の死(1861年)以降の女王の喪服姿を反映しており、落ち着いた印象を与えます。1893年から女王の死去(1901年)まで使用されました。
- 時代背景: ヴィクトリア朝末期は、イギリスの国力がピークに達する一方で、帝国主義への批判や社会改革の動きが芽生え始めた時期でもあります。1897年のダイヤモンド・ジュビリー(在位60周年)はさらなる国民的祝賀となり、この肖像が広く使われました。女王の晩年の姿は、長きにわたる統治の象徴として敬意を表しています。
- 技術的側面: デザインは耐久性を考慮して改良され、機械彫刻技術の進化も見て取れます。銀貨の品質は一貫して高く保たれました。
まとめ
これら4つの肖像は、ヴィクトリア女王の生涯とイギリス社会の変遷を映し出しています。
ヤング・ヘッドは若さと新たな時代の幕開けを、ゴシック・ヘッドは芸術的探求を、ジュビリー・ヘッドは帝国の繁栄を、オールド・ヘッドは長寿と安定を象徴しています。
クラウン銀貨は実用品であると同時に、当時の文化や価値観を伝える歴史的遺産でもあります。
1枚の銀貨がいろいろなことを教えてくれますね!
以上、参考になりましたら幸いです。
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