【徹底解説】中国の銀市場で起きている異例の事態と輸出規制の全貌

事業

​2025年12月現在、中国の銀市場では「異例の事態」が起きています。

それに対して取られた一連の規制措置について、投資信託(ファンド)の混乱から国家レベルの輸出規制まで、その背景を含めて詳しく解説します。

​結論から言うと、今回の騒動は「実物の銀の価値」と「投資信託(ファンド)の価格」が大きく乖離してしまったバブル状態を、当局と運用会社が強制的に冷やそうとしたものです。

​1. なぜ投資規制が必要だったのか?(異常なプレミアム)

​通常、銀のファンド(投資信託)の価格は、裏付けとなる「銀先物」の価格と連動します。

しかし、今回の「UBS SDIC シルバー・フューチャーズ・ファンド」では、投資家の熱狂があまりに強く、ファンドの価格が実際の銀の価値を60%以上も上回る「プレミアム(上乗せ)」が付く事態になりました。

たとえるなら:

本来1万円で買えるはずの「銀の引換券」が、あまりの人気に転売市場で1万6千円で取引されているような状態です。

この「6,000円の差(プレミアム)」は、いつか必ず消えてなくなる(暴落する)危険なバブルでした。

​2. ファンドに対して取られた主な規制・対応策

​過熱する投資を鎮めるため、主に以下の3つの対策が取られました。

  • ① 購入金額の極端な制限 投資家が新しくこのファンドを買う際の限度額を、段階的に引き下げました。
    • ​以前:1日500元(約11,000円)まで
    • ​25日〜:1日100元(約2,200円)まで
    • ​29日〜:一部の区分(クラスC株)で新規申し込みの全面停止を発表 このように「買いたくても買えない」状況を作ることで、資金の流入を物理的に遮断しました。
  • ② 「ストップ安」による強制冷却 25日、ファンド価格は1日の下落制限いっぱい(10%安)まで売られました。
    これはパニックというよりも、「今の価格は高すぎる」という警告が効き、適正な価格(プレミアムの解消)に向かって調整が始まったといえます。
  • ③ 輸出規制の強化による心理的影響 後述する中国政府(商務省)による「銀の輸出ライセンス制(割当制)の再導入」の決定が、「中国国内の銀の希少性が高まる」という思惑を呼び、投資家を刺激して極端な買い注文につながったというマクロ的な背景があります。

​3. なぜ「銀」がこれほど狙われたのか?

​中国の投資家が銀に殺到したのには、複数の理由があります。

  • 歴史的な高値: 銀のスポット価格が1オンス72ドルを超え、1979年以来の記録的な上昇率を記録したこと。
  • SNSの拡散: 中国のSNS(小紅書/Rednoteなど)で、ファンドの価格差を利用して儲ける方法が拡散され、個人投資家が「乗り遅れるな」と殺到したこと。
  • ショートスクイーズ(踏み上げ): 10月に発生した空売り勢の買い戻しにより、価格が跳ね上がった成功体験が投資家に残っていたこと。

​4. 中国政府による「輸出規制」の詳細と核心

​ファンド単体の動きに留まらず、中国政府(商務省)は2025年11月以降、銀の輸出に対するライセンス制(割当制)の再導入を決定しています(2026年より実施)。

この規制は、単なる「輸出量の調整」にとどまらず、「誰が輸出できるか」という資格そのものを厳格化する非常に強力なものです。

​■ ライセンス(輸出枠)の再編条件

​2026年から、中国国内で銀を輸出できる企業は、商務省が認めた「特定の適格企業」のみに限定され、以下の高いハードルが課されます。

  • 生産実績のハードル: 新規に輸出許可を申請する企業には、年間80トン以上(中国西部地域では40トン以上)の生産実績が求められます。
  • 過去の実績: 2022年〜2024年の間に、継続して銀の輸出を行っていた実績があることが条件となります。
  • 国有・大手優先: この条件により、中小のトレーダーや新規参入者は市場から締め出され、事実上「国が認めた大手企業や国有企業」による独占・管理体制が強まります。

​5. なぜ今、中国は銀の輸出を縛るのか?(3つの戦略的理由)

  1. 「緑のインフラ」への囲い込み(脱炭素戦略): 銀は電気伝導率が全金属の中で最も高く、太陽光パネルの電極に不可欠です。
    中国は世界の太陽光パネル生産の約8割を占めており、「将来のエネルギー覇権」を握るために、原料である銀を国内に優先的に確保したいという狙いがあります。
  2. 戦略的資源としての地位(地政学的カード): 銀はハイテク兵器の電子回路や精密機器にも多用されます。
    レアアースやガリウムと同様、銀の輸出をコントロールできるようにしておくことで、国際交渉における外交的なカード(切り札)として機能させる意図が見え隠れします。
  3. 国内価格の安定と投機抑制: 輸出規制を予告することで、国内の供給不足懸念を煽りつつも、最終的には「国の管理下にある」ことを示すことで、無秩序な価格乱高下を抑え込もうとしています。

​6. 国際市場への影響(銀の価格はどうなる?)

​中国は世界最大級の銀の精錬国であり消費国でもあるため、この規制が本格始動する2026年に向けて以下の影響が予想されます。

  • 供給の「タイト化」: 大手企業しか輸出できなくなるため、世界の市場に出回る銀の量が実質的に制限されます。
  • 価格の二極化: 中国国内の価格と、国際価格(ロンドンやニューヨークなど)の差が広がりやすくなります。
  • 供給網の混乱: 太陽光パネルや半導体メーカーは、中国以外の供給源を探す動きを加速させる可能性があります。

​まとめ:銀は「コモディティ」から「戦略物資」へ

​今回の中国による銀規制は、「実力以上に膨れ上がった投資価格を、投資家が大損する前に強制的に引き下げる」ための緊急措置であると同時に、銀をリチウムやコバルトのような「ハイテク・エネルギー戦略物資」として国家管理下に置くという長期的な意志の表れでもあります。

​価格が10%下がったとはいえ、依然としてプレミアム(上乗せ幅)は大きいままです。当局は今後も、価格差が正常な範囲に戻るまで厳しい監視を続けると見られています。

以上、参考になりましたら幸いです!

コメント