一枚の銀貨に凝縮された19世紀世界史 ─ 1859年ヴィクトリア ゴチックフローリン

日常
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こんなものが届きました。

みんな大好き ゆうパケット ポストミニです。

早速 開封してみましょう!

プチプチとダンボールの中から出てきたのは…

1859年 ヴィクトリア女王 ゴチックフローリン(Gothic Florin)銀貨です。

見ての通りかなりの劣品ですが、230円/gぐらいで狩っています😅

(元々は)美しいゴシック体の銘文と紋章意匠を持つフローリンは、通貨十進化の先駆けとしても重要な存在です。


◆ 1859年 ヴィクトリア ゴチックフローリン銀貨のスペック

  • 発行年:1859年(銘文「MDCCCLIX」)
  • 額面:1フローリン(= 2シリング = 1/10 ポンド)
  • 材質:スターリングシルバー(92.5%銀、7.5%銅)
  • 重量:約11.31 g
  • 直径:約30 mm
  • 表面(オブヴァース)
  • 王冠を戴く若きヴィクトリア女王の左向き肖像
  • 周囲銘文「VICTORIA D:G: BRITT: REG: F:D: MDCCCLIX」
    → 「神の恩寵による、英国の女王、信仰の擁護者、ヴィクトリア、1859年」
  • 裏面(リバース)
  • 十字型に配置された紋章:イングランド王国の獅子、スコットランドの獅子、アイルランドのハープ
  • 中央には英国を象徴する三大植物(バラ・アザミ・クローバー)
  • 銘文「ONE TENTH OF A POUND」=1/10ポンド
  • デザイン
  • 肖像:ウィリアム・ワイオン(ロイヤルミント主任彫刻師)
  • 裏面:レナード・チャールズ・ワイオン(息子で後継者)

やはり0.6gほど摩耗していますね🙄

大きさ的には、竜50銭銀貨よりもやや小さいぐらいです。

👉 通貨に「1/10ポンド」と表記したのは当時の英国における 十進制度(Decimal System)導入への試みでした。
実際の完全十進化は1971年になりますが、その100年以上前に行われた「先取り実験」の一枚です。


◆ 1859年当時のイギリスの時代背景

1. 君主と政治

  • 君主:ヴィクトリア女王(即位1837–1901)
    統治22年目、帝国の安定と繁栄を象徴する存在でした。
  • 政治的変化
  • 1859年6月、自由党(Liberal Party)が正式に結成。
  • ホイッグ党、急進派、旧ピール派が集結し、近代イギリス自由主義の中核が形づくられました。
  • 首相はパーマストン子爵(2度目の内閣、1859-1865)。外交色が強く、バランスを重んじる政権でした。

👉1859年は近代イギリスの「自由主義政治がまとまり、発展を始めた年」なのです。


2. 国際情勢

  • ヨーロッパ情勢
  • 第二次イタリア独立戦争(1859年4月開戦)
    • サルデーニャ王国とフランス(ナポレオン3世)が、オーストリア帝国軍と戦い、北イタリアの解放が進展。
    • イタリア統一運動(リソルジメント)の大きな転機。
    • 英国は不介入を選び、「欧州均衡」を守る立場を維持。
  • アメリカ
  • 南北戦争前夜。1859年10月、奴隷制廃止主義者ジョン・ブラウンが「ハーパーズ・フェリー蜂起」を起こし、国内亀裂が決定的に。
  • 英国経済は綿花を南部に依存しており、米国情勢の緊張は直に影響する状況でした。
  • アジア・植民地
  • 1857年の「セポイの反乱」を受けて、1858年にイギリス東インド会社は解体、インドはヴィクトリア女王直轄の「インド帝国」体制に移行。
  • 1859年は、その新体制の基盤を整えていく時期。
  • 中国方面ではアロー戦争(1856〜60)が進行中で、東アジアにおける英国の影響力拡大も続いていました。

3. 社会・文化

  • 産業革命の成熟期
  • 鉄道網・蒸気船・電信が整い、ロンドンは「世界貿易の心臓」として機能。
  • 科学
  • 特筆すべきは1859年に チャールズ・ダーウィン『種の起源(On the Origin of Species)』出版
    → 進化論はキリスト教世界観を根底から揺るがし、西欧社会に大論争を引き起こしました。
  • 文学
  • チャールズ・ディケンズが『二都物語 (A Tale of Two Cities)』を1859年に発表。フランス革命を題材に社会的・歴史的テーマを描きました。
  • 芸術・建築
  • 当時流行していた「ゴシック・リヴァイヴァル」様式が、このコインのデザインにもはっきり反映しています。中世的で装飾的な文字と紋章構成は、当時の美意識の象徴です。

◆ 1859年ゴチックフローリンの歴史的意味

  1. 通貨制度史の一里塚
  • 「1/10ポンド」表記は、イギリスが世界に先駆けて十進制導入を模索していた証拠。
  • 100年以上後の1971年のデシマル化へつながる実験的貨幣。
  1. 文化的象徴
  • ゴシック・リヴァイヴァル趣味を反映した芸術性の高いデザイン。
  • 純粋な通貨であると同時に、ヴィクトリア時代の「美意識の表現物」。
  1. 歴史的背景との重なり
  • 自由党の結成 → 英国自由主義政治の基盤形成。
  • イタリア統一戦争 → ヨーロッパ秩序の大きな変化の年。
  • アメリカ南北戦争前夜 → 英国経済にも直結する国際問題。
  • 『種の起源』出版 → 科学革命と思想革命の年。
  • 『二都物語』 → 文学的にも歴史的にも豊穣な時代。

◆ まとめ

1859年 ヴィクトリア ゴチックフローリン銀貨は、

  • 英国の通貨十進制度試行を象徴する貨幣であり、
  • ゴシック趣味が花開いたヴィクトリア朝文化の美の体現であり、
  • 同じ年に「自由党成立・ダーウィン進化論・ディケンズの大作・イタリア独立戦争」が並ぶような、
    激動する19世紀世界を写し取った歴史の証人 です。

以上、参考になりましたら幸いです!

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